HOWL, and……
ブランドを気にすることはあってもブランド名そのものを意識することはほとんどないのかもしれない、と思うきっかけがあった。
「HOWL and another poem」というドメスティックブランドがある。私はそのブランドを、元「RICO」のデザイナーがあらたに立ちあげたブランドという情報のほかに、そのブランドがどのようなイメージの服をつくっているのか、ということを視覚的に得ていたくらいだった。
どこのブランドのものなのかは柄や形といった特徴的なデザインをもつばあい、それをみれば瞬時に判断できるものもあるのだが、たとえばロゴをみて、それがなんというブランドのものなのかがわかったとしても、ブランド名から想起される印象というのはブランドのもつ印象(ブランドに対してじぶんが抱くイメージ)にそのまま還元されてゆく。
この柄はあのブランドだ、このブランドといえばあの柄だ、といったぐあいにブランド名をきいて直ちに浮かび上がる、たとえばバーバリーチェックのようなものもある。しかし、バーバリーというブランド以上にその名前を意識することはない。
「LOUIS VUITTON」のモノグラムをみて、そこから想起されるものとは、「L」と「V」が重なる洗練されたロゴと日本の家紋のようなモチーフの組み合わせによるシンボリックな柄であり、それには「高級な」「人気の」「セレブ」「憧れの」といった、抱く印象はさまざまであったとしても、「LOUIS VUITTON」がなぜ「LOUIS VUITTON」というネームなのかを考えもしない。「ルイ・ヴィトン」や「シャネル」、「ヨウジヤマモト」のようにデザイナー自身の名を冠にするブランドはとくに、ブランド名からは、ブランドイメージ以外の情報やその先の広がりというものに、よほどのきっかけがないかぎり意識をむけたりはしないのかもしれない。「HOWL」に関しても、私はその名前を意識したことがなかった。
リチャード・ブローティガンの「西瓜糖の日々」を読んだのがきっかけで、つづけて「愛のゆくえ」、「アメリカの鱒釣り」、「芝生の復讐」から、ウィリアム・S・バロウズの「ジャンキー」、「ゴースト」、ジャック・ケルアックの「路上」、「地下街の人々」、ゲーリー・スナイダーの「終わりなき山河」といったビート・ジェネレーションと呼ばれるものをいくつか読んでいた。そしてビートで欠かせない詩人としてアレン・ギンズバーグを意識しないわけではなかったが、私はギンズバーグの作品をまだ読んでいなかった。そんなときに、スナイダーと山尾三省との対談「聖なる地球のつどいかな」を読んでいると、そのなかにギンズバーグについて語る場面がでてくるのだが、ギンズバーグの代表作「吠える」に「ハウル」とルビが振られているのをみて、はじめて、私のなかであの「HOWL」が浮かび上がった。とうぜん正式なブランド名の「HOWL」につづく「and another poem」があったというのが詩集とブランドを結びつける要因として大きかったのだが……
私はすぐにブランドを検索して調べてみたのだが、やはりギンズバーグの詩集からその名をとったものだった。アメリカのcity lights booksからは「Howl, and Other Poems」というものもでている。私はブランド古着のお店をやっていて何度も「HOWL」を査定していたのにもかかわらず、そのブランド名の由来やデザイナーがなにに影響を受けているのかを知らないでいた。それに不甲斐なさを感じるとともに、ファッションと文学とがこういった形で結びつき絡み合っていることに喜びを感じた。
これまで音楽とファッションとのつながりは言及されつづけてきたが、文学とファッションとなるとあまりきいたことがなかったからだ。しかし、調べてみると(というよりは意識的に目を向けてみると)思いのほか文学とファッションとの相性はよいというのがわかってきた。
「N.HOOLYWOOD」は12秋冬にアーネスト・ヘミングウェイのファッションスタイルというテーマでコレクションをした(ノーベル文学賞作家アーネスト・ヘミングウェイはかつて「Abercrombie & Fitch」(アバクロ)で冒険用のジャケットを誂えていたというのは有名なはなし)。「FACTOTUM」は、14秋冬に、アンデルセン「絵のない絵本」という短編集からインスピレーションを受けたコレクションを発表したり、16春夏では、まさに山尾三省からのインスパイアのコレクション(シーズンもインスパイアを受けた作家もいまの超ど真ん中ではないか!)を発表していたりと、私が知らなかっただけで、もしかしたら文学×ファッションは旬なのかもしれないと思わないでもない!
私は、これからブランドと文学とのつながりをみ落とさないようにしなかればならない、となぜかはわからないが、強い義務感にかられている!
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